米国の財務省と内国歳入庁(IRS)は12月4日、インフレ削減法(IRA)の下で、クリーンビークル(注1)購入者に対する税額控除(内国歳入法30D条)の適用条件として設定した、バッテリー生産での「懸念される外国の事業体(FEOC)」の関与に関する規則案を官報に掲載した(2023年9月11日記事参照)。2024年1月18日まで連邦政府ホームページにてコメントを募集する(通知番号は「IRS and REG–118492–23」)。
2022年8月に成立したIRAでは、バッテリー材料の重要鉱物の抽出や、処理、リサイクル、バッテリー部品の生産、組み立てがFEOCで行われた場合には、30Dの税額控除の対象外となることをうたっていたが、FEOCの定義(注2)に関し、詳細が明らかとなっていなかった(2022年11月24日付地域・分析レポート参照)。FEOCの定義の詳細に関しては、所管官庁のエネルギー省(DOE)が12月4日にガイダンスを官報に掲載 した。ガイダンスでは、FEOCの定義の中で用いられている(1)外国の事業体、(2)外国政府、(3)管轄の対象、(4)所有、管理、または指示の対象といった言葉の示す範囲などを明らかにした(添付資料参照)。例えば、(1)に関しては、「外国政府」のほか、「米国の合法的永住者、米国国民、またはそのほかの保護された個人ではない、自然人」「外国の法律に基づいて組織された、または外国に主たる事業所を有するパートナーシップや協会、法人、組織、およびそのほかの集団」のほか、それらによって所有、管理、または指示の対象である、米国法の下で組織される事業体も含まれている。(4)に関しては、取締役会の議決権などを対象国の事業体が計25%以上保持している場合や、重要鉱物や部品の生産に関し、ライセンス契約などの契約を通じて、対象国の事業体が実効支配を行っている場合などが含まれるとされる。FEOC要件の適用は、重要鉱物に関しては2025年1月1日から、部品に関しては2024年1月1日から開始されるが、バッテリー全体に占める価格の割合が低く、生産地のトレースが困難な一部のバッテリー材料については、2026年12月31日まで移行期間が設けられた。
今回の規則案に関し、米国自動車イノベーション協会(AAI)のジョン・ボゼーラ会長兼最高経営責任者(CEO)は「財務省は米国の電気自動車(EV)移行がどれほど難しいかを認識し、バランスを取ろうと努めた」とした上で、トレースが困難な材料に関する移行期間の設定については「重要で、賢明だ。2年間の移行期間の設定がなければ、EV 税額控除は机上だけで存在していた可能性がある」と指摘した。
DOEによると、税額控除の対象となるのは、全クリーンビークルの約2割に当たる23モデルのみ(10月23日時点、半額控除も含む)。2024年からは、部品に対するFEOC要件に加えて、バッテリーに用いられる重要鉱物や部品に関する調達価格要件(注3)もそれぞれ10ポイント引き上げられることから、税額控除の対象車両数が減少するか注目される。
(注1)バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称。
(注2)インフラ投資雇用法(IIJA)のセクション40207(a)(5)に記載されている。
(注3)バッテリーに含まれる重要鉱物のうち40%(調達価格ベース)が、米国か自由貿易協定(FTA)締結国で抽出もしくは処理され、または北米でリサイクルされる必要がある。この割合は、2024年以降10%ずつ段階的に増加し、2027年には80%になる。バッテリー部品に関しても、2023年から50%が北米で製造または組み立てられる必要がある。この割合は、段階的に引き上げた後、2029年以降は100%となる。
(大原典子)
(米国)
URL:https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/12/d06faf5d083a56d6.html