メキシコの全国鉄鋼業会議所(CANACERO)は2月11日、米国が全貿易相手国に鉄鋼・アルミニウム追加関税を課す大統領布告を発表したこと(2025年2月12日記事参照)を受け、メキシコの鉄鋼も同措置の対象に含まれることに強い反発を示すプレスリリースを出した。同措置は鉄鋼産業のみならず、北米の全ての金属加工業に悪影響を及ぼし、北米の競争力と地域統合を危険にさらすと強調している。
CANACEROによると、メキシコと米国の間の鉄鋼貿易は2024年に米国側の230万トンの出超で、メキシコが米国に輸出するよりも多くの鋼材をメキシコは米国から輸入している。従って、米国がメキシコの鋼材に追加関税を課す正当な理由は存在しないとしている。米国側の一方的な措置は年間21億ドルに相当するメキシコの鉄鋼輸出の75%に悪影響を及ぼし、メキシコでの雇用や投資を脅かすとし、メキシコの鉄鋼が対象外とならなかった場合は、相互主義を適用し、米国からの鉄鋼輸入に対しても報復措置を取る必要があると主張している。
メキシコ政府は2018年の第1期トランプ政権下で行われた鉄鋼・アルミ232条の追加関税賦課に対し、71品目の米国産品に報復関税を課した。その中には鋼材も含まれており、税率は米国側と同様の25%に設定された(2018年6月6日記事参照)。メキシコ政府は現時点で報復措置について明言するのを避けている。メキシコ経済省は、カナダや中国とは異なり、メキシコと米国の間の鉄鋼貿易額は米国側の黒字という事実関係を米国政府に説明し、国別除外を獲得すべく、マルセロ・エブラル経済相が米国の商務長官や通商代表部(USTR)代表と面談する方向で調整を進めるとしている。
しかし、ジェトロの現地ヒアリング調査によると、仮に両国の交渉がうまくいかず、メキシコ製の鉄鋼・同製品に対して関税が付加された場合、メキシコ側も報復関税を打たざるを得ないと考える識者が多い。ただし、相互主義の下で米国の鋼材に報復関税が課されると、2018~2019年の際よりもメキシコの製造業、特に自動車産業に及ぼす悪影響は強いとみられる。背景には、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の自動車分野の原産地規則(注)を満たすため、米国産鋼材の利用が増えていることがある。特に完成車メーカーは2020年以降、ホワイトボディーに用いる溶融亜鉛メッキ鋼板を日本や韓国から米国産に切り替えており、米国製溶融亜鉛メッキ鋼板(幅60センチ以上)の輸入シェア(数量ベース)は拡大し、2024年に炭素鋼で51.4%、特殊鋼(合金鋼)で56.8%に達している(添付資料表1、表2参照)。特に炭素鋼で輸入量は増加しており、2024年は2019年比65.8%増の56万トンが輸入された。米国産鋼材に対する報復関税は、メキシコから米国に輸出される自動車の車両価格にも反映され、米国の自動車市場にも悪影響を及ぼすと懸念される。
(中畑貴雄)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/02/e4a6eb43bd1d5e16.html