JERAと住友化学はリチウムイオン電池の正極材を金属に戻さず構造を修復して再生する「ダイレクトリサイクル」技術の共同開発に着手した。焙焼(高温加熱)や金属精錬を伴う従来方法に比べ環境負荷を低減する狙い。2023年度から自動車メーカーによる再生正極材の評価・検証を始める。電気自動車(EV)市場拡大の進展に合わせ、30年度以降の事業化を目指す。(梶原洵子)
ダイレクトリサイクルは、住友化学が約10年前に発明した正極材の構造を修復する技術を基盤とする。JERAが前工程で取り出した正極材はバインダーなどが付着し、充放電により劣化している。これに「ある成分を添加して焼成することで結晶構造を修復する」(斎藤伸住友化学エネルギー・機能材料業務室担当部長)。
この成分の働きで、通常フッ素樹脂系バインダーの焼成で発生する危険物のフッ酸の発生も抑え、固体で安全に回収できる。添加する成分は正極材の種類ごとに使い分ける。同技術は「当時の研究員が『いずれ正極材の再生が必要』と考え、正極材製造時に規則構造を作る技術を応用して開発した」(同)という。
これまで住友化学は京都大学と共同で、ラボレベルの実証を進めてきた。22年に愛媛工場(愛媛県新居浜市)に1処理で十数キログラムを再生する専用試験設備を新設する。顧客評価を進めるとともに、最新の正極材ニーズに対応して修復技術を磨く。
JERAは使用済み電池を放電して無害化し、正・負極やセパレーター、電解液に分別して回収する。金属箔に正極材などが付着した状態の部材に電気パルスを照射し、正極材を引きはがす。この方法は非鉄金属メーカーなどが行う焙焼法に比べ二酸化炭素(CO2)排出量を削減し、金属の回収率も高められる。
電解液は危険物のため、廃電池の少ない現状では安全を優先して焙焼法が先行し。電池の大量廃棄時代をにらみ、非焙焼の技術を確立する。
これまでに要素技術の有効性を確認。今後社会実装に向けて、連続処理での安全なプロセス確立や装置設計、電気パルス分解の最適条件探索などを行う。
両社の技術開発は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援事業に採択された。同事業の目標はコバルト・ニッケルの回収率95%、リチウム70%。JERAの尾崎亮一技術経営戦略部技術開発ユニット長は「開発技術を最適化すれば、この目標を上回る」と自信をのぞかせる。
正極材のダイレクトリサイクル技術の開発は米エネルギー省も取り組んでいるという。資源循環技術は各国のEV戦略を支える重要な要素となる。
リチウムイオン電池からコバルト・ニッケル95%回収へ、「ダイレクトリサイクル」技術の全容|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 (newswitch.jp)