西アフリカ・ガーナの首都アクラ郊外にある「世界最大の電子機器の墓場」と呼ばれる地区で、不当廃棄された電子機器を日本企業などによってリサイクルする動きが広がっている。伊藤忠商事は日本でスマートフォンが1台販売されるたびにアフリカで廃棄された携帯端末1台をリサイクルするサービスを開始。同地区の電子廃棄物でアート作品を制作する日本人美術家によってリサイクル工場も新設され、住民の生活改善に取り組む活動も始まった。
この地区は東京ドーム30個ほどの広さがあるアグボグブロシー地区。先進国などから運び込まれた携帯端末やPC、テレビなどさまざまな電子廃棄物が野積みされ、その量は数千万トンといわれる。廃棄物は毎年60万トン規模で増え続けているという。
地区内では廃棄物から銅などの金属をとるため野焼きが行われており、発生する有毒ガスで健康被害も発生。土壌や川、地下水の汚染も広がっている。
伊藤忠は、アフリカで電子廃棄物の回収・リサイクルを手掛けるオランダのスタートアップである「クロージング・ザ・ループ(CTL)」と提携し、CTLの代理店としてリサイクルサービスを国内のスマホメーカーや通信会社への提供を開始した。
CTLはガーナをはじめ、ルワンダ、マリなど10カ国で携帯端末を回収し、イタリアの工場で貴金属などを取り出している。このプロセスはスウェーデンの国際認証機関「TCO」から認証を得ており、伊藤忠はTCO認証プロセスに参加していることを表示できる権利をスマホメーカーなどに提供する。顧客企業は環境に配慮している企業としてブランドイメージを高められるメリットがある。
第1弾はスマホ大手メーカー、FCNT(神奈川県大和市)が2月に発売した新機種「アローズ N F-51C」。サービス対象は5000台で、1台販売されると数百円のサービス料金がFCNTから伊藤忠に支払われ、アフリカで廃棄された携帯端末1台が回収・リサイクルされる。
CTLのサービスは、英国の携帯事業者ボーダフォンがドイツで販売する100万台規模の端末に適用しているほか、KPMGなどコンサルタント会社やオランダ政府も活用。CTLは年間300万台規模で回収・リサイクルしている。
一方、美術家の長坂真護(まご)さん(38)は、同地区に文化施設や学校をつくっており、2021年にはリサイクル工場も設けた。長坂さんは17年から同地区を訪ね、電子廃棄物を使って年間600から1000点のアート作品を制作しており、作品の販売収入がリサイクル工場などの建設資金にも充てられている。リサイクル工場では日本企業の技術協力を得て電子廃棄物のプラスチックを破砕し、破砕チップを装飾ブロック、タイルなどの建材に用いている。
同地区の環境・貧困問題の解決を目指し、電気自動車(EV)やリサイクル、農業を広く手掛ける事業会社を2022年、ガーナと日本にそれぞれ設立した。EV事業では第1弾として電動キックボードを生産し、年内にも日本で販売する計画だ。
長坂さんは30年までに100億円を集めて大規模なリサイクル工場を建設する計画を進めている。「来年からは小・中規模のリサイクル工場をつくるなどして、雇用を現在の24人から30年までに1万人に増やす。同地区の住民は3万人超といわれているので、事実上全世帯の生活改善につながる。何としてもスラムをなくしたい」と長坂さんは意気込んでいる。(遠藤一夫)
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